2014/11/05

【ブックレビュー】カラーコレクション・ハンドブック 第二版

昨日の記事などの調べ物でとっても役に立ってます。

2011年に国内リリースされた本の、内容を更新した「第二版」とのこと。
この手の専門書ってどうしても技術の進歩速度に対して、すぐ陳腐化してしまう悲しさがあるんですが。
三年という短いタイミングでの改訂というのは、とても嬉しいですね。(財布にはありがたくないですがw)

ちょっと長いですが、
お値段高めの本ということで気になっているけど迷ってるという方は
続きからどうぞ。。。

(※以下、本書内のページ番号を緑色で示します。

改めて、こちらの本です(▼)

カラーコレクションハンドブック第2版
映像の魅力を100%引き出すテクニック

国内版はボーンデジタルさまより2014年5月(約半年前)にリリースされました。
2011年版は、参考素材を収めたDVDが付いていましたが、第二版では公式サイトからのダウンロードになりました。
上記リンクのほか、こちら(▼)からもDL可能です
http://www.borndigital.co.jp/book/support/5128.html

映像の魅力を引き出す」ということで、撮った映像を調整する『ポスト・プロダクション』の工程に主軸を置いた本です。
念のためですがカラーコレクションのつづりは color correction。collection(収集、採集)じゃなくて、『修正、補正、訂正』の方ですね。

さて、まず全体的なところですが…
ネット上で見かけられる評価同様、『内容も充実していて』『訳もよく』、価格は張りますがそれに充分見合った良書だと感じます。欠点があるとすれば、ボリューミーなので読み切るのに根気がいるくらいでしょうか(笑

また、注意というほどではありませんが、
・液晶ディスプレイ = 「デジタルディスプレイ」
・ペンタブレット(タブレットPCじゃないタブレット) = 「グラフィックタブレット」
など、どうしても日本国内とは異なった言い回しがありますので、適宜読み替える必要はあります。
(ほか、アプリケーションに搭載されているエフェクトを「〜〜効果」と訳していたりするのもご愛嬌?)

あとは、突然のなぞのジョークもちゃんと(??)訳されています。たとえばこんな感じに、

コントロールサーフェスを使用すると、カラーコレクションシステムを宇宙船の管理室のようにすること以外に、次のような多くの重要なメリットがあります。
p.74(2011ではp.39)

宇宙船www いやみんなそういうこと思うと思いますけどw
こういうのって、海外の解説書を読んでてちょっと楽しいところですね。
(コントロールサーフェスというのは、アプリケーションの操作を効率化するハードウェア(操作卓、制御卓?)です。
本書で例示されているのはこういうやつ
http://scratch.keisoku.co.jp/element.html
http://japan.quantel.co.uk/products/pablo/
http://www.euphonix.co.jp/mc_color.html
http://www.hoei.co.jp/products/filmlight/pdf/baselight-blackboard2_slate.pdf ※PDF注意
快適で高速に作業が行えるため「妥当な投資」(p.192) として本書では導入をお勧めしておられます)

注意ついでに、2011年版からの細かな仕様変更として、見開いたとき右肩にあった「各章の名前」が無くなっています!そのかわり、目次にはチャプターだけでなく中見出しにも番号が振られています。6.3 奥行きの作成、とかそういう感じの。
改訂第3版は、両方合体してほしい気がしました……!

【構 成】

本体589ページ、序文26ページの計616ページ。
本体は大まかに下記のように分けられます。

・chapter 1-2
 実際のカラコレ解説に入る前の準備等。資料パート。p.1-75
・chapter 3-4
 プライマリ・カラーコレクション。p.77-253
・chapter 5-8
 セカンダリ・カラーコレクション。p.255-472
・chapter 9-10
 それよりも後の作業(もっと俯瞰の調整や規格的な品質の話し)。p.473-554
さらにAppendix(付録)とIndexがp.555-589

【なかみ】

序文には目次や謝辞のほか、以下のような内容が書かれています。
・はじめに
 ・カラーコレクションとグレーディング
 ・カラリストの6つの仕事
 ・カラリストと撮影監督の関係

さらに「はじめに」冒頭〜中見出し「カラーコレクションと〜〜」までにもそこそこのボリュームの文が載っておりまして、そこではヨハネス・イッテンの素敵なお言葉を掲げつつ対象読者を「本格的なカラーグレーディングの技術と仕組みをしっかり理解したいと切望している、向上心あふれたカラリスト」と規定しています。
個人的には、色彩学で非常にお世話になるイッテン先生のグっと来るお言葉を真っ先に持ってこられた時点で「あ、この本は大丈夫な本だ」とか思ってしまうわけです(笑?
もちろん対象読者のくくりに含まれていなくても、ここに掲げられている三つはだれにでも気になる内容じゃないかなと思います(特にひとつめ!)。また昨今の映像制作では、監督自身が本書で言うカラリスト的立ち位置になるケースも多いと思いますし、そういう方にも『カラリストとは』的な内容は得るものがあるかと思います。
というわけで、本体に入る前段階ですが、この「はじめに」の内容からすでに必読度たかし。です。


「カラーコレクションの本」ということで、なにか特定のアプリケーションを具体的に解説するのは主眼ではありません。
具体的な操作について説明する時は、だいたい下記のような対応になっています。
・UIっぽい図で説明(だいたいどのソフトでも見た目一緒だろうという場合?)
・各ツールのUIを併載(ちょっとした比較レビュー状態)
・共通内容の解説 +ソフト固有の内容を見出し分けして具体的に解説
二番目なんかは、「どのソフト(のUIとか方針)が自分にはよさそうかな?」みたいに検討する時にも役立つんじゃないかなと思います。

ちなみに、記事中の作例のほとんどは、下記のソフトで作成されたそうです(p.xvi
・BlackMagick Design DaVinci Resolve
・FilmLight Baselight
・Assimilate Scratch
・Adobe SpeedGrade
……2011版ではここにBaselightが居なくて、Apple Colorが居ました。。。
ここにSpeedGradeが来るのかーと思いましたが、著者はSpeedGradeの書籍も書いておられるんですね(蛇足ですが2011版時点では「Iridas SpeedGrade」でした)
また、カラーグレーディングのためのツールは数多く存在するとしつつ、代表的な例として下記を挙げています(上記四つはのぞいて)
・SGO Mistika (2011にない)
・Digital Vision Film Master (2011時点では「Nucoda」Film Master)
・Autodesk Lustre
・Marquise Technologies RAIN (2011にない)
(ここに、2011には「Synthetic Aperture Color Finesse」も)

さらにソフト紹介な流れで、
グレーディング専用ではなく編集なども組み合わせた意欲的なポスプロソフト勢として
・Autodesk Smoke
・Avid Symphony (2011ではこれの替わりに?Avid DS)
(ここに、2011には「SGO Mistika」も)
より編集寄りな例として
・Avid Media Composer
・Apple Final Cut Pro X (2011当時は 7)
・Adobe Premiere Pro
・Sony Vegas Pro
サードパーティー製カラーコレクションプラグインとして
・Red Giant Colorista II
・Magic Bullet Looks (2011にない)
・Synthetic Aperture Color Finesse
の名前が挙がっています。

またこのソフト紹介の最後、「重要なこと」として、下記のような内容が書かれています。

「Adobe After Effects や The Foundry Nuke などにもカラーコレクション機能はありますが、これらだけでカラーグレーディングを済ませようとするのはずいぶん大胆な試みです」
(※大意)

続けて「それをやろうとするひとが居たらその勇気に敬意を表する」みたいなことも。
この件についてそれ以上に言及されていないのが逆に怖いですが、要はそう言うことというか、
ウィットに富んだ表現で「やめておけ」と読むことが出来ます。
似たような例としては、
「スプレッドシートで表計算もプロジェクトマネージメントも出来るし、印刷物のデザインも出来る!!!!!」的なアレかなと。(※ハイクオリティな絵を書いちゃう逆に本気な向きは除く

いずれにしても、2011年版と見比べるとなんとなくソフトの歴史が垣間見えます。DaVinciの編集ツールとしての充実具合、NUKE STUDIOの登場などを考えると次回改訂時にこのあたりがどうなっているか楽しみな気がします。


本体部分ですが、まず知識的な準備と設備的な準備について解説しているのが Chapter 1, 2 です。
ポストプロダクションワークフローやファイル形式・規格など、知識の復習と確認、曖昧だった内容の更新ができます。Chapter 1 は2011年版にはなかったパート。三年の間に起きたファイルベースワークフローの一層の浸透などに対応したものと思われます。
Chapter 2 は作業環境構築について触れられています。色の見えはトラブル多発箇所なので……ちゃんと設備を整えられるかどうかは別にして、しっかり読んでおきたいところです。このパート以降(※具体的な色調整作業の解説)についつい目が行ってしまいがちですが、ここを踏まえてないと最悪喧嘩に発展することもあるので(ry
ディスプレイの明るさに関連して、カンデラ毎平方メートルを「ニト」と呼ぶらしいというのは新鮮でした。前者はとても呼びづらいので、ぜひ普及してほしいですね!w
(p.38, 151)
参考 : http://ja.wikipedia.org/wiki/カンデラ毎平方メートル

「プライマリ」のパートは、「人間の視覚」についてというところから始まります。
艦隊桿体細胞とか衰退錐体細胞とか、「色よりも明るさに敏感」とかの高校生物な内容は知っていましたが、「輝度と色では脳の処理する部分が違う」というのは驚きでした(p.77)。かつ、「グレー画像よりもカラー画像の方が認識速度が速く、記憶にも残る(大意)」(p.163)という内容もあり。そういう機能的なところが、絵的なインパクトや感情への訴えかけにつながるのかなと想像しました。
あと波形モニター(p.88)とベクトルスコープ(p.179)、RGBパレード(p.184)の読み方が身に付きます。
3.15 露出オーバーに対処する(p.149〜)では、ディテールの全くない白飛びの場合は再撮影のほかないとしつつ、Raw撮影された素材の露出オーバー対応に触れています。ここではちょっとセカンダリ的な作業解説になってました(p.153〜)
3.9 Logエンコードメディアのコントラストを調整する(p.114-123) 4.5 Logカラーコントロールを使用する(p.213-221)は2011年版にはなかった内容で、このところ聞く機会も増えたLogメディアの絡む制作をサポートしています。

続く「セカンダリ」の解説は、部分ごとの調整などのより細かな絵作りテクニックに踏み込んで行きます。
部分ごとの調整のために「対象を絞る」「画像の領域を分離する」ための方法として、まず「HSL調整」が紹介されます。要はクロマキールーマキーです。これがp.255-303とけっこうな文量を割いて解説されています。
これに続いて、HSLキーヤーよりも先進的なキーヤーとしてRGBキーヤー(など)の紹介(p.303-307)。例として FilmLight社の DKEY、Autodesk社の Diamondキーヤーと、HSLキーヤー・RGBキーヤーなどを組み合わせて複雑な分離が行なえる Autodesk Smoke の Moduler キーヤーが取り上げられています。
(Modularキーヤーっていうとこの辺とかか?? >http://area.autodesk.jp/information/smoke_learning_channel_tips_3/ )

キーイングに続く分離の方法としてシェイプ、マスクが解説されます(p.309-340)。トラッキング、アニメート、HSL調整との組み合わせ等機能的な解説とは別に、6.3 奥行きの作成(p.321-326) というトピックもあります。ここでは、人間がどういう手がかりで奥行きを知覚しようとするかを考えつつ、カラリストはそれをどうコントロールして行くかが書かれています。
「画家と映画制作者は、二次元のカンバスの中に奥行きを作り出す必要性を共有しています」(p.321) という非常にグっとくる一文の通り、このトピックはカラリストだけでなく、映像を作る人だけでなく、絵作りするひとすべてに読む価値がある内容と言えます。
……美術の方面からしたらすでに多くの美術書で取り上げられている内容になるわけですが、別の視点から解説されるとまた理解が深まるのではないでしょうか。
色調整を時間に沿って変化させることについて解説する「Chapter 7 グレードのアニメート」(p.341-368)では、ツールごとに方法が違うこともあってか、DaVinci, SpeedGrade, Baselight, Scratch それぞれ個別にページを割いています。
それに続くChapter 8 が本書の白眉。
「記憶色:肌のトーン、空、葉」というタイトルで、画面の多くを占めることになるであろう肌、空、葉(植物)の調整方法を解説しています。まず視聴者の見たい色=記憶色ってなに?というところから研究資料や論文を展開し、むむむーと唸らせた後で、「調子に乗らない」という見出しで 研究もいいけどクライアントの好みや長年の経験も大事だよ と釘を刺すスパイシーな構成になっているのが、8.1 記憶色とは?(p.370-381)
以下、さきほどの三要素について大量の資料や筆者の知識が怒濤のように展開されます。肌についてがp.381-433、空 p.434-460、葉 p460-472、と肌の文量が圧倒的で重要度が伺われます。それぞれ「理想の肌は?空は?葉は?」というところに触れてから解説に入る構成。
この章だけ取り出して売ってくれ!と思ってしまう内容ですが、これまでのプライマリ、キーイング、シェイプ(マスク)などが解説の前提知識として織り込まれているので、そうも行かないんだろうな的なまる。

Chapter 9 ショットのマッチングとシーンのバランス(p.473-509)では、一連のショットを「同じ場所、同じ時間帯」にみせるための作業について書かれています。クライアントともに行なうこれらは『カラリストの作業のうちもっとも時間のかかるものの一つ』とのこと。なので、「クライアントと仕事をするための秘訣」というトピックもあり、スケジューリングなどについてまで書いてあります。恐れ入ります。
ついでに、フィルム時代のカラーグレーディングについてもここで触れられます(2011にはなかった内容(別の箇所にあったのかな?))

最後は、作品を放送規格などに適合させるための作業について。納品時とか、あるいはプロジェクト開始前に踏まえるべき内容かと思います 。
2011版からちょこちょこ更新されていますが、見出し的には「カラーコレクションアプリケーションでのブロードキャストセーフ設定(2011年版、p.455-)」が「10.10 グレーディングソフトウェアでのブロードキャストセーフ設定(p.545-)」に変更されているのが、(グレーディングとカラコレについて著者の中で見つめ直すことがあったのかしら?)などと思われてなんとも味わいがあります。

付録「クリエイティブテクニック」(p.555-574)では、グレーディング、カラコレの枠からはみだしそうな、より創意に富んだ三つのルックが取り上げられています。どうやら、ルックについて取り上げた別の本からの抜粋のようです。美味しいと思ったらこっちの本も買ってね!というメッセージですねw
著者サイトの当該書ページ > http://vanhurkman.com/wordpress/?attachment_id=2856

下記のルックが取り上げられています。

 A.1 ティントとカラーウォッシュ
 A.2 アンダートーン
 A.3 バイブランスとターゲットを指定した彩度調整

三つ目の後ろのはルックではないですがwそれぞれの見出しの冒頭にゲーテジョセフ・アルバースフロイドの言葉を引用するなど、他の章よりも俄然筆致がノっている感じがします(?)
それぞれどういうルックを取り上げているかは、画像検索してみれば出て来ますよと書こうとしたんですが、『ティント』で検索したら新感覚コスメの画像が大量に出て来たので出鼻をくじかれました。諸賢におかれましては各人のぐーぐる力を奮ってご確認いただければと思います(白目)

というわけで、付箋を貼りつつ何度も読みたい本です。
また三年経ったら改訂してくれるかもしれませんが、それまでぼろぼろになるくらい読み返したいものです。
ちなみに原書は電子書籍版あり。なんとKindle 価格: ¥ 3,659。ファ−
あとついでにAmazon見たら2011年版が中古で¥ 14,945になってて別の意味でファー
原書は2011年版から第二版で値上げ($35.19 -> $44.51)してるんですが、国内版は嬉しいことに同じ価格です。
(訳本が高くて気になる場合は、英語の勉強に投資して原書で読めばバッチリということですね!南無!)


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